第一志望ではない高校の入学式から早くも2週間が過ぎた。
自分たちが式の主人公だと言うのに、はやる気持ちが微塵も感じられなかったのは、同じ中学出身の人間が誰一人としていない私立の高校に入学してしまったおれ自身のせいなのだろうか。
まだ少し冷たい春風に揺れるソメイヨシノの桜を、教室の窓から冷淡に見下ろす。
周りで騒いでいるクラスの連中の会話はおれの耳には届かないが、どれもこれも楽しそうな内容ばかりで、もしかしたら自分はこの空間に住み着く空気なのではないだろうかと錯覚してしまう程に、自分はこのクラスで浮いていた。
(…もうこのクラスでの友達作りは望めないな)
神崎寵夢
寵愛の寵(チョウ)に夢(ユメ)と書いて″メグム″と読む。
両親が『夢を持って愛される人になって欲しい』という意味を込めておれに名付けたそうだ。
でもおれはそんな女の子っぽい名前が嫌いで仕方ない。
実際に、クラスの男子だけでなく、上級生にもこの名前の事でからかわれたりしたし、女子には『可愛い名前』なんて言われる始末。
でもそれは小学校までの話で、ほとんど全員が顔馴染みである中学校では、いつの間にか周りがおれの名前に馴染んでいた。
(猛烈にあの頃に戻りてぇ…!)
今となってしまえばそんな過去も思い出になっているのが怖い所だ。
…まぁ相変わらず自分の名前は嫌いだが。
「えーじゃあ、今日はここで終わるが、明日は絶対プリント忘れんなよぉー」
気付いたら授業終了のチャイムが鳴っていて、おれは現実に引き戻された。
65分間という長い死闘を5時間耐え続けて今に至る。
ふと窓に視線を移すと、赤みを帯び始めた西日がおれたちを照らしていた。
一瞬吹いた突風に、おれの真横に位置する窓枠がカタカタと鳴き声を挙げる。
「ホラ!あいつだよ。今ギター担いだヤツ。…どう?」
「…う~ん…。こればかりは音を聴いてみねぇと分かんねぇよ」
窓際の一番後ろの席がおれの席なのに対し、その一番前辺りで男子3人の会話が耳に届いた。
(…いや、実際に喋ってんのは2人だけか)
どちらにしろ、今し方愛用のアコースティックギターを背中に背負ったおれに対しての言葉として捉えていいだろう。
そんなヤツらを一瞥して、おれは何事もなかったかの様に教室を出た。
その後を″ヤツら″の1人が尾行していたとも知らずに…。
