「…それと、あとひとつ」
「…?」
「奥谷への気持ちは、あの頃お前にもちゃんと抱いていた気持ちだよ。…あの頃も今も、いつだって俺は本気だ」
「……」
「…じゃあな。さよなら」
それだけ呟いてはタクシーのドアは閉まり、ブロロ…とその場を去って行った。
『さよなら』
あの頃言えなかったその言葉を、言えた
懐かしい匂いにも感触にも心は揺らがない
俺は確かに、冷たいかもしれない
元とはいえ一度は愛した相手に少しの可能性もやれなくて
泣きそうな顔を見てもなお、あの姿のことばかり考えてる
それでも心に嘘はつけない
(…奥谷は、駅まで送るって言われてたっけか)
急ぎ足で向かうのは、君の元
今、想うよ
その肩を抱き締めたいと



