「お前が何を言っても、俺はやり直すつもりなんてない」
懐かしい匂い
あの頃より、少し細くなった気もする感触
それらがあの日々を、思い出させるけれど
今の俺と彼女の距離を示すように、線を引く
「やだっ…!」
「…、」
けれどそれにも負けじと、郁美は俺の胸へ飛び込んでは抱きついた。
「…郁美、離れろ」
「やだ…ごめんなさい、悠…何度でも謝るから、今度こそ悠を裏切らないから…!」
「…郁美、」
「やっぱり私には、悠しかいないのっ…まだ、悠のことが好きなのっ…!!」
「……」
ワガママを言うように、涙声で縋る姿。あの頃なら、きっとその姿に押し負けていた。
けれど、その肩にそっと手をのせる。
「俺たちはもう終わったんだ。郁美に対するそういう気持ちも…今の俺には、ない」
「どうしてっ…」
「……」
「…やっぱり、奥谷さんがいいの…?」
「…、…」
『奥谷』、突然出たその名前に驚きながらも否定をしない俺に、彼女は綺麗な顔を歪ませる。



