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「……」
飲み会後、出てきた店の外でブロロ…と去って行くタクシーにその場には俺と郁美の二人だけが残される。
(おっさん共…図ったな)
うちの会社の上司たちは、世話好きが多い。これも大方、俺たちを復縁させてやろうという魂胆なのだろう。
別れた原因をはっきりとは伝えていないのがこうして裏目に出るとは…。はぁ、と溜息をつく俺に、隣の郁美の体は寄りかかったまま。
「郁美、いい加減に離れろ」
「……」
「お前、確か俺より酒強かっただろ。何のつもりだ?」
「…、」
付き合っていた頃、その可愛らしい見た目とは真逆に平気で俺より酒を飲んでいた彼女。そんな奴があれくらいの酒で酔っ払うわけがない。
要するに演技だと気付いていた俺はもう他の人の目もないことからきつめに言うと、郁美は言い訳をするでもなくその大きな黒目でじっとこちらを見上げた。
「…ねぇ、悠?私、やっぱりまだ…」
「…悪いけど、聞きたくない」
「…え…?」
そんな彼女の言葉を遮りその細い腕をそっとほどくと、俺は彼女の体と距離を離す。



