「で?何があったのよ。真崎さんにセクハラって叫びたくなるような出来事、あったんでしょ?」
「なっ…ない!何も!ない!」
「そんな真っ赤な顔で何もないって言って、誰が信じると思う?」
「うっ…」
「この前も言ったでしょ。そろそろその指輪も捨て時。進んでもいい頃なんだから、好きなら好きでいいじゃない」
「……」
不意に真面目な声となるかおりに、一度言葉を止めつい下を俯いてしまう。
「…ない、よ」
進んでもいい時?
ううん、私にはそんな時きっと一生来ない
来てはいけない
だって進んでも、またいつかそういう時がやってくる
また、裏切られる時が
ぽっかりと心の真ん中に穴が空く
あの痛み
同じことは繰り返したくないから
首にさげた、重りは取れない
足は今日も進むことを許さない
「…頑なねぇ」
「……」
そうそれは、頑なすぎるほどに



