「なんでこんな暑い日に雨なんて降るかなー」

去年の夏、私は急に降ってきた雨から身を守るべく近所の蕎麦屋の屋根の下へ避難していた。
あいにく折りたたみ傘などもっておらず、止むのを待っていた。
ふいに、声がした。
「今日は夜まで止まないよ」
背後から聞こえた突然の音声に驚いて後ろを振り返ると、クラスメイトの渡瀬遥が立っていた。
「傘、貸してやるから帰りなよ」
さらに続けたありがたい言葉にろくな返事が出来ず身じろいでいると、慌てた様子で苦笑いした。
「ごめん、俺は渡瀬遥。一応同じクラスなんだけど、わかる?」
「わかるわかる、さすがに5ヶ月たってたら...」
やっと声が出せた。
直後は、急に話しかけられると本当にパニックになるんだ、とか変なこと考えてた。
「今日は夜まで雨が降るから、傘貸すよ。ここにずっといられるとお客さんにも邪魔だろうし、やまない雨を待ってても意味ないでしょ?」
そこまで言われて気づいた。そうか、そういえばここはお店の前だった。
「ごめん、そうだよね。傘借りていい?」
「近所でしょ、家。今度返してくれればいいよ」
「わかった」
ありがとね、と傘を広げて、私は足早にそこを立ち去った。