田中を起こさないようにそっと部屋を出た。

「…あの、少し時間いいですか?」

僕は、勇気を持って声をかけた。

「え…いや…あの、すみません。」

ナンパだと勘違いされたのか、女性はアパートから離れていってしまった。

「待って、ナンパじゃないですよ。飯間の友人なんです。飯間のことで話したいことがあります。」

飯間の名前を出した途端、足をピタッと止めてゆっくりと振り返り僕の顔を見てくれた。

「すぐそこに喫茶店があります。そこにいきましょう。」

女性は返事をしてくれなかったが、ちゃんと着いてきてくれた。

喫茶店に着くと飯間のときと同じ席に案内された。

「はじめまして。」

「…はじめまして。」

「早速なんですが、本題に入ります。飯間はもうあのアパートには住んでいません。」

「…え。そうなんですか。どこに行ったんでしょうか。」

「それは僕もわかりません。ただ…傷を癒しに行ったこと以外何もわからないんです。」

「傷…ですか?」