「そんな…」

いきなりの別れなんて寂し過ぎる。でも飯間が病を克服出来るなら…。

「あのアパートで昔、女性と暮らしていたんだ。もう彼女はいない。同棲をはじめてから結婚に乗り出すまでに時間がかかりすぎたんだ。気がつけば10年も経っていた。
俺に嫌気がさしたんだろうな。ある日、仕事から帰ってくると彼女はいなくなっていたんだ。
手紙すら残してくれなかった。
ただ、写真が伏せられていた。それだけだった。」

薬指に指輪をつけたあの写真か。

「それ以来あの写真を見たことはない。見る勇気がないんだ。本当に愛していたのに彼女を失った。それが引き金になったのかはわからないが、ちょっとしたことで不安になって弱くなって病におかされた。彼女のせいだとは言えないが、彼女を断ち切らない限り俺は…」

「わかった。もう何も言わなくていい。飯間が頑張れるようになるならそのほうがいい。」

飯間の目には涙が浮かんでいたがその奥に決意が溢れていることがわかる。
引き止めることなんて出来なかった。

「ありがとう。」

「さみしくなるよ。」

「あぁ、すまない。もしもまた元気になれたら帰ってくる。それまで待っていてくれ。」