泣かないで。

一言そう言いたい。言い訳はもうしない。

彼女にその一言が言えた時、僕は変われる。

それは確信に似た自信だった。

こんな見た目で相手にされないのはわかってる。
だけど行かないわけにはいかない。

そう思ったら動くのは早かった。

靴なんて久しぶりに穿いた。

走ることすら覚束ない。
だけど必死になって追い掛けた。

「待って!」

彼女は焦るわけでもなく、逃げるわけでもなく、ゆっくりと足を止めた。

「…」

彼女は何も言わない。

ただ冷たい表情だった。
「あの…えと…
…泣かないでください。」

言えた。僕は変われる。
「…」
やはり彼女は何も言わない。
気持ち悪いと思ったんだろうか。

でもさっきほど冷たい表情ではないように感じる。

何も言わぬまま、彼女はまた歩き始めた。

僕は変われない。

そう言われた訳じゃないのに、なんだか自信を失った。