手掛かりはないかと、辺りを見回すが何もない。
その時ふと目に入ったゴミ箱。
何気なく覗き込むとクチャクチャに丸められた紙があった。

手にとり、広げてみる。
驚いた。これは手紙だ。しかも僕宛てに書いてある。
まるで僕がここにくることをわかっていたみたいだ。

“俺はここから消えることにした。
会社が倒産したんだ。

何も言わずにいなくなることを悪く思わないでほしい。
俺たちは他人だ。
借金の取り立てが来たらそんな人知らないと言えばいい。
お前に迷惑をかけないためだ。すまない。
初めてあったときを覚えているか?俺はあのときお前の金を盗るつもりで入り込んだんだ。情けないよな。いい大人が盗みなんてやっちゃいけない。お前の目を見たときにそう思えたんだ。お前の目は妻に似ていた。だからなんだろうな。
お前と飲んだビール、うまかったな。また飲めたらよかったのに。
もし俺を探してくれていたならごめんな。”

手紙にはそう書かれていた。

会社の倒産…もし僕があのとき会社に入っていたら潰れずに済んだのかな。
また大事な人を失った。
僕は田中を助けてあげることは出来なかったのだろうか。

話をきいてあげられたら結末は変わっていたのではないか。

無力な自分に腹がたつ。
田中を助けたい。