「やっぱり帰ろう」と繰り返す私の手を、「ここまで来て何を」と言うA君が強引に引き、階段を引きずられるように昇った。201号室の前を通り過ぎ、Sさんの部屋の前に立つ。この間来たときは気がつかなかったが、ドアの横にすりガラスがある。途中で怖くなり逃げ出したので気がつかなかった。中は暗すぎて、部屋の様子をうかがうこともできない。外がこんなに明るいのに、ここだけぽっかり穴が開いたように暗い。