私は、図書館の片隅で動けなくなってしまった。



助けて。




本当に、死んでしまう…







そのときだった。
薄れゆく意識の中で、
私は、微かに
とても甘くて優しい声が、
私の体を揺らしているのを感じた。



王子様だ…



「ちょっと、君、どうしたんですか?」


私、もう唇も動かせない。

「誰か!救急車を、呼んでください!」




「まずいな、息、してない…」


その人は、手際良く
私の顎に指を当て、くいと上に向けた。

気道を確保。


心臓マッサージ。


そして、
人工呼吸!


その人は、全く躊躇わなかった。



ああ。


どなたか存じませんが、
ありがとうございます!



私の体は仮死状態にあったが
感覚はあった。


触れた瞬間の唇は、少しカサカサしている。
でも、柔らかかった。

彼は、その柔らかな唇をきゅっと固めると、ゆっくりと息を吹いた。

彼の生温かい呼気が、
私の中に入ってくる。


少しずつ、混濁した意識が鮮明になり、眼球が動く。


トク…

トク、トク、トク。