「我慢させてごめんね。お母さん達が泣いてたから泣けなくなったよね」

どうしても滲む視界を慰めるように、母がわたしを抱きしめた。

「ずっと、自分のこと責めてたでしょう。でも暦の所為じゃないのよ。…あなたはなにも悪くないの」

姉が死んだ夜や花瓶を割ったあの日のそれとは違い、どこまでもあたたかい母親の腕だった。

「お母さん…っ」

確かに誰かに責めてほしかった。

でも本当に言ってほしい言葉はほかにあった。

「わたし達、家族で…これから頑張ろう」

母のその言葉に、わたしの欲しいもののすべてがそこにあった。


姉が死んで悲しかった。

救えなかった自分が許せなかった。

親の涙を初めて見た。

骨になった人間を初めて見た。

それは紛れもなく姉のものだった。

姉の時間はあの腕時計と同じように、誰にも気付かれずに止まってしまった。

家中の笑顔が冗談みたいに消えた。

耳鳴りするほどの沈黙が産まれ、あんなにありふれていた愛が見えなくなった。


だからわたし達家族はもう終わってしまったのだと思った。