「暦も、もう立派な大人だから。…これからも、しっかり。がんばって」

母の声がぼやけて聞こえる。

「………」

手のひらの感触だけが鮮明なものとしてわたしに残る。

「もう、自分のこと…責めないで…っ」

震える声。

「………でも…わたしっ」

それは母だけじゃなかった。

震え上がる慟哭が、姉のいた記憶を呼び覚ます。


大好きだった、本当に。

顔も性格も似ていなかったけれどわたしたちは姉妹で、やさしい父と母に包まれてあたたかいと感じた絆は確かに家族のものだった。


「四季はもう、いないけど…それは誰かの所為じゃない」


濁流のような涙が押し寄せ視界を塞いだから、溺れないように手の中の腕時計を抱きしめる。

焼き付くような笑顔の姉の姿が止まった姉の腕時計と共にチラついて、こんなにも誰かに責めてほしいはずなのに、父の言葉に心を掬われるのがわかった。