気流内部の気圧が変化し、空気が外へ押しやられている。
 酸素が減少する。
 呼吸がつながらない。
「苦しいだろ?そこから抜け出す術を教えてあげるよ。方法は一つ、お前が心の奥に閉じ込めた《彼の御方》と入れ代わることだ」

(僕が・・・もう一人の自分と・・・)
 ダメだ。
 それだけは。
 嫌なんだ。
 僕はどうしたらいいんだ・・・総司・・・?

「でも、不可能だろうね。《彼の御方》を表には出させない」
 通常、心の最奥に守られている万華石は、本人の意志なしで取り出すことはできない。

 ―だから、肉体を殺して万華石を砕く。

「お前を殺して《彼の御方》万華石を砕く。《彼の御方》が復活すれば、我等の最大の脅威と成り得る。故に《彼の御方》が二度と復活できぬよう・・・なんて、もうムダか」
 クスリ、と真は笑った。
「こんな発言をすると、不謹慎だと大江様に叱られるだろうけど、ちょっとだけ《彼の御方》に会ってみたかったなぁ」
 気流の監獄の中で、既に卓也は気を失っている。
 無理もない。
 内部は著しい気圧変化で、極度の酸素欠乏状態だ。
(あと五分が限界だろう)

 五分で卓也は確実に死ぬ。

「おやすみ。そして、さようなら」