チっと雅樹が舌を打った。
「出してやらねぇわけにはいかないだろ」
 右手を突き出す。
 凍りついたコンクリートに亀裂が走る。
 絡みついた覇妖の腕の間を縫って、目映い光が差し込んだ。

 雅樹が目で合図を送る。
 総司が応える。

 雪の結晶がコンクリートを覆っていく。粉雪の奏でる葬送曲―今こそ、覇妖に天への道をつくろう。

 ―散開。
 ―散開。

 閃光がコンクリートを突き崩す。
 パァっと粉雪が散り、光が舞った。
 中心部から真っ二つにコンクリートが割れる。

「言っただろう・・・」
 甦った真夏の陽光が廃屋を照らした。
 雅樹がフッと口許を上げる。
「術者の狙いくらいお見通しだ」
 破砕されたコンクリートが崩れて砂になる。

 計算高い「あの少年」のことだ。
 廃棟に二人を閉じ込めるための手は打っているだろうことは、予測していた。
(ならば罠が作動する前に対応策を張ればいい。こうやって・・・)
 右手を引いた瞬間、床に張り巡らされていた何十本もの光の軌跡(すじ)が消えた。
(これが俺の能力)

 ―《光糸(こうし)》の力。

「俺は姑息なマネが嫌いでな」
 真夏の陽射しの中で、雪と共に覇妖の影が溶けていく。

 心の痛みのわかる雅樹だから・・・覇妖達を放っておけない。―のだと総司は思う。

 人は心を持つゆえに、人を許せず、憎んだりもする。けれど本当に恐ろしいのは、かたくなに心を閉ざして、その場所に留まることだから。