呪術の痕跡だ。

 呪力の入った赤瑪瑙を雅樹が叩き割ったことで、隠蔽されていた呪陣が明るみに出たのである。
 総司の顔が強張った。
 術者は呪法を用いて覇妖の敵愾心(てきがいしん)を煽り、総司を襲わせた。

 それだけではない。
(この呪陣の呪力が、雅樹そっくりの気配をつくっている)
 総司をこの廃棟におびき寄せるために。

「俺自身も驚いている。ここまで俺の気配に似せるとは」
 この呪陣をつくったのは高位(ハイレベル)の術者だ。
 だから不審に思って来てみたが。と彼が言う。
 そして、ここで総司が覇妖に襲われているのを発見し、助けたという経緯である。
「俺は姑息なマネが嫌いだ」
 琥珀の双眼の鋭い一瞥(いちべつ)で、床の赤瑪瑙がさらに細かく破砕された。

(間違いない)
 彼の言動から、総司は確信した。
(情報源(ソース)は呪陣の術者だ)

 状況から推察して第三者の関与、そして第三者と雅樹との間に何らかの繋がりがあることに疑いの余地はない。
 雅樹はおそらく、その第三者―呪陣の術者から情報提供を受けている。
(だとすると、何のために)

 第三者は、こんな手の込んだ呪陣をつくった?
 ―いや。
 考えるまでもない。
 総司はきびすを返した。こんな所にいてはいけない。
(術者の狙いは俺じゃない)
 術者は雅樹の性格さえも見越して、総司だけでなく、雅樹をも《彼》から遠ざけるために、この呪陣を張った。
 狙いは最初から《彼》だったのだ。これは、巧妙に仕組まれた罠である。

 ―卓也が危ない。