「総司ッ」

 声が意識を破った。

 ガシャンッ。

 窓ガラスが割れ、差し込んだ陽の光に覇妖達がひるんだ。総司の首を絞めていた白い手が外れる。

 壱(ひと)つ、弐(ふた)つ、参(みっ)つ

 静かに総司が数を紡ぐ。
(この覇妖達は生き霊だ)
 最も強く共通して感じるのは、ここで死を迎えた者達への慙愧の念。死者の魂はとうに浄化しているというのに、生者は未だに迷い続けている。
 総司は印(いん)を切った。

 迷える生者の魂に捧げる、数え唄のレクイエム。

「什(とお)」

 一輪の雪の結晶が上空に舞い上がり、銀色に光り輝くオーロラが天から舞い降りた。 光のビロードが覇妖を包んだ。キラキラキラと氷の粒子が踊る。

「―白銀の静謐で御魂(おまえ)は何を見る」

 氷結した覇妖が粉々に砕けた。
 ひとかけらの亡骸さえ残さずに、断片は真っ白い蒸気になって昇った。
 遥か頭上の小さな天窓から、空へ・・・
 巻き上がる水蒸気が廃屋に立ち込めて、辺り一面が白く閉ざされる。

「久し振りに、お前の《雪》を見た・・・」
 声は白く煙る視界の向こうからだ。

 ヒュンッと空気がうなった。
 銀世界が裂け、突如、総司を襲う鉄パイプ。

 目前に飛んできたそれは、しかし彼まで届かない。凍りついた鉄パイプが甲高い音を立てて砕ける。
 銀世界に氷の風が吹いた。
「いい気なものだな。安全な場所で見学か」

 やはり、いた。

 総司は見据えた。
 深い霧の向こうに、「彼」はいる。

「助けてやったのに、ずいぶんな言葉じゃねぇか」
 総司の声に「彼」が応える。覇妖との戦いのさなか、鉄パイプで窓ガラスを割り、覇妖の注意をそらして総司を援護したのは「彼」だ。
 だが・・・

「鉄パイプを投げたのも、俺だけどな」