「私、知ってますよ」
 彼女が指差したのは、ブラウン管のアナウンサーである。
「通り魔ですよ、通り魔!女の敵です。恐くて夜一人で歩けません」

 ・・・紫乃だったら通り魔の方が逃げるから大丈夫。
 というツッコミはおいといて。

「僕も知ってる。カミソリのような刃物で女の人の髪の毛を切るんだよね」
「最初は髪を切られるだけの被害だったけど、近頃じゃケガ人が出ているらしいじゃないか」
 卓也と総司が口々に同調した。

 被害件数は既に十件を越えたらしい。
 警察も動いてはいるが、未だ犯人の検挙には至っていない。というのも被害者は皆、口をそろえて犯人の顔どころか姿形も影すら見ていないと言うのだ。
 そして、もう一つ。
 この事件には不思議な点がある。
 切り落とされた被害者の髪の毛が、現場に一本も落ちていないのである。

「気持ち悪ーい」
 犯人は絶対、髪の毛フェチの変態オタク男!と、紫乃が主張する。それはどうだか知らないが、鎌倉で起こったこの怪事件をマスコミが連日報道しているのは事実だ。
「ほんと許せないよね」
 怒りを露にする卓也の横顔を見て、紫乃がはっとした。
「・・・もしかして卓也先輩」
 なに?と顧みた彼に紫乃は思いもかけない言葉を告げる。

「本当は通り魔に襲われたんですね!それで、そんなケガを」

 誰もが予想もしなかった言動だ。何の事実確認もなしに勝手に断言された卓也が目を丸くしている。

・・・というのに、彼女は自分の推理を信じて疑わない。
(だって卓也先輩、華奢でかわいいから)
 確信する紫乃の目だ。

「暗闇で女の子に間違われたんですね。卓也先輩、かわいそうっ」
「あの、ね・・・平塚さん」
「私にできることがあったら何でも言って下さいね。先輩のためだったら、通り魔だって退治しますから」
「えっ、ダメだよ!そんな危ないこと」
 さっき「恐くて一人で歩けない」と言った、か弱い乙女は誰だったか。
「とにかく卓也先輩を傷つけるなんて許せません」
「いや、そうじゃなくって・・・」
 どこをどういうふうにしたら、そんな思考が飛び出すのだろう。救いを求める眼差しを総司に送る。

 ―が。