(うそ、うそ~)
 花束の謎を知った紫乃は動揺を隠せない。
(卓也先輩の極秘入院を知っていて、しかも情熱の紅い薔薇の花束を黙って置いていくなんて)

 まさか、と思う。
 否定したい。
 だけど行き着く結末は・・・

 世の男性と同じで、女の子が花を贈りたいと思う男の子は限られている。

 ―そう、花束は「好意の証」以外の何ものでもない。

「まさか沢っち?でも1-Bに好きな子がいるって言ってたし。3-Aの杉本先輩?だけど先輩には付き合ってるってウワサの彼が・・・」
 いや、それとも。もしや。
「鎌倉聖霊女子学院☆」
「落ち着けッ」

 とうとう近隣の有名お嬢様高校まで持ち出す始末である。疑心暗鬼にも程がある。
 たまりかねた総司が一喝する。
 が、彼女の暴走を止めたのは総司ではない。

「平塚さん?」
 卓也の声に紫乃は我に返った。
(ど、どうしよう・・・)
 ―絶対バレた。
 よりによって卓也のいる前で。これじゃあ告白したも同然だ。
(ちがうのっ。告白はもっと気持ちを整理して)
 にこりと紫乃の目の前で卓也が微笑んだ。
 いつもなら完全に舞い上がっている紫乃だが―

 あぁ、神様。絶体絶命の大ピンチ!

「平塚さんも花を持ってきてくれたの?」
「・・・え」
「きれいだね、かすみ草」
「そ、そうなの!これ、卓也先輩に!」
 紫乃は純白のかすみ草の花束を、有無を言わさず卓也に押し付ける。
「ありがとう」
 そんな彼女の態度に気を悪くしたふうもなく、卓也は微笑を返した。
 ―「九死に一生を得る」とは、まさにこのことだろう。
 紫乃の余りに不審すぎるリアクションを目にしたというのに、恋の神様のイタズラか。卓也は全く何も気付いていない。
(卓也先輩のそういうところも好きです♡)
 ほぅ、と紫乃はため息をついた。
 ―にぶすぎるだけだろっ。
 というツッコミは、総司の心の中だけにしておくことにして。