あの子じゃなくて私を見て


「じゃあ俺はそろそろ帰るよ」

「えー、もうですか?」


(早く)


「そうよ、もっと居ればいいのに」


(早く、早く)


「でも俺は仕事とかたまってるし、今日は帰るよ」


(早く帰って!!!)


「じゃあね」


玄関の扉の奥にあの人が消えていく。
素早く自室に行き、ベッドに勢いよくダイブする。


「やっと帰ってくれた」


ため息混じりの声を漏らす。
作り笑いのせいで頬の筋肉が痛い。


「ほんと、なんであんな人がいいんだろ」


(私も同じ……か)