まだ後片付けが、そう言いかけたあたしの口を園長は片手を離して覆った。


「だめよ、今日くらい早く帰りなさい。
頑張り過ぎちゃダメ、まだ7時だから彼氏とも会えるわよ。
その様子だと仕事だからって誰とも約束しなかったでしょ?」


全く、せっかくのクリスマスイブだっていうのに、と呟いて、あたしの口から手を離して彼女はじとっと睨んでくる。


苦笑しか返せないあたしは枯れているんだろうか。


さっさと背を向けてあたしの言い分を無視することにした園長の背中を追いかけながら、そう思ったーーー


「え!?
千秋さんとなにも約束してないのっ!?」


「しませんよ、そんな。
今日千秋さんはちいくん……千冬くんとパーティーするんですよ」


職員室で帰り支度をしていたあたしの答えに、園長は目を丸くした。


千秋さん、とはあたしが受け持つクラスの園児の山口千冬くんのパパだ。


営業マンの千秋さんは仕事柄か忙しい人で、いつも閉園ギリギリにお迎えに来るので、必然的に千冬くんがあたしのクラスの最後のお迎えになる。


千秋さんは一生懸命早く終わらせようとしているのだけれど、それでも時々間に合わないことがあって。


閉園してしまう保育園では可哀想だからと、あたしの自宅に預かることが度々あるのだ。


普通はそこまでしないのだろうけど、あたしはどうしても千秋さんを助けたかった。