「これで、俺がお前に手を出しても、全く咎められる理由はないことが分かっただろ」


「え、でも私……」


そしてこれで話は終わった、といわんばかりに頬に口づけてくる彼に戸惑いの声を上げると、不満そうな瞳と視線がぶつかる。


「なんだ、まだ何かあるのか?
お前が彼氏と夏に別れたことぐらい知ってるぞ」


「知ってたんですか!?」


「知らいでか。
あんなに分かりやすいのも今時珍しいだろ、いい大人が失恋ごときで髪を切るだなんて」


ぐっ、と苦しい声を出した私に彼はにやりと笑う。


「じゃ、じゃあもしかして全部知ってて」


からかってたの?


敬語も忘れて尋ねると、当然とばかりに頷かれてかなり凹んだ。


おかしいと思ったんだ、この人そんな非常識な人だったっけって。


そこではた、と思いつく。
じゃあさっき専務に言ったっていう愛する人ってまさか……


自覚した途端全身が熱くなった。


課長は私が電話した時から分かってたんだ、私の気持ちも、考えも。


なのにキスしてくるなんて。


「……私をいじめて楽しかったですか、岬課長」


厭味ったらしく名前の部分を強調して言うけれど、課長はちっとも気にしてない様子で嬉しそうに私の頬を撫でながら、


「ああ、すごく楽しかった。
いつも何かにつけて歯向かってくるお前が俺の腕の中で泣くなんてレア過ぎて」