「《教会》は、《イグレシア》はサーカス団です。私どもの公演は客であるヒトと死者であるあなた方のためのものです。私どもは公演を通じて、あなた方が在るべき処に渡れるようお手伝いすることができます」

その昔、舞を舞うことで神を降ろすことかできたという。
舞は神事だった。
団長はそれを利用して《イグレシア》を創った。
《教会》という名をサーカス団に冠した。
曲芸をすることで道を示せるように。
なぜ団長がそんなことをしたのか、なぜ死者を還すことを仕事としているのか、誰も知らない。
誰も聞かない。
けれど、それでもいいんだ。
団長が決めたことなら、《イグレシア》はそれに従う。
《教会》として、道を示そう。

「私どもができるのはお手伝いするだけ。あなた方を完全に助けることはできません」
「それでも。……それでもこの子が救われるのならば、私は在るべき処に還りたい」

女性がそっと撫でたおなか。
産まれるべきであったその子は女性と共に失われた。
……はずだったのに。
女性は留まってしまった。
おなかの子は何処にもいけないままだった。
終わりの見えない道に迷いこんでしまった。
そこに、道を、示そう。

「あなた方に楽しみを」

二枚のチケット。
二人分の席。
それを女性に渡す。
団長や団員が護っている土地に入れるように。
楽しんでくれたらいいなと思いながら。

「ありがとう、ございます」
「私どもも精一杯お手伝いさせていただきます。どうか、あなた方が正しい道に戻れますように」

一礼をして立ち去る。
女性も深々と礼をしたのがわかった。
こういう仕事は気分がいい。