舞台をぐるりと囲むように流れる水、というのが今回の演出で丁度その為の水が水槽に入れてあった。
その水槽へ布と固定のためのピンを投げ込む。
そして、手を入れた。

「お願いします」

祈りを捧げて。
手を引き抜くと同時に水で濡れた布が空へと舞い上がる。
薄く美しい布はひらひらと天井までその身を踊らせて。

「ええと、図案ではこんな感じかな?」

すでに天井に飾ってある布を参考にしながら布を操っていく。
布に乗せていたピンで留めていき、完成したことを確認してから布の水分を引き抜く。
丸い玉のようになった水は私の手に戻ってきてそこから水槽の水と同化した。

「ありがとう!」
「次からは無しにしてよ?」

次は団長がいるはずで、不備なんて起こりようもないけれど。

「フミ、こっちも手伝ってくれないか?」
「はいはーい!」



荷物持ちから曲芸まで、なんでも御座れの水使い。
それが私、サーカス団《イグレシア》の曲芸師《フミ》。
今は、曲芸師兼団長(仮)だけれど。
いつかきっと団長が目を覚ませば、私はただの曲芸師。
だから。
いつか、きっと、きっと。
いつまでも待ってるから。