「フミー!こっち手伝って!」
「はいはい」

飾りの準備が足りないからと呼ばれ、大道具が足りないからと呼ばれ、大工が足りないからと呼ばれ、細工師も足りないからと呼ばれ、布をかけろと呼ばれ、リハーサルのだと呼ばれ、もう私はヘロヘロだというのに……

「また呼ばれてしまったや。またね、団長」

椅子で眠る女性に声をかけて私は声の方へ走り出す。

ここでは便宜上フミ、と呼ばれている私は家族を持たない。
とある事情でふらふらしていたところを団長に助けてもらった身だ。
団長とは遠い血縁にあたるようなのだが、よくわからない。
助けてもらった先はサーカス団だった。
町から町へ流れるように移動する団は私の性に合っていたこともあってずっと置いてもらっている。
そして、私の能力はサーカス団に合っているというのもここに留まっている理由なのかもしれない。


「それで?どうすればいいの?」

呼んでいたのは飾り付けの担当者だった。

「これなんだけどさ」

持っていたのは美しい布。
今回の公演は水をテーマにしたもので飾り付けもこの布を駆使して水を表現しているはずだが。

「これが?」
「本来ならあそこにあるはずなんだ」

あそこ、と指されたのは天井。
流れる水を表現した布が緩く飾られている。
……が、確かに図案にあったものだともう一枚いるはずだ。

「なるほどね」
「お願い!!」

不備には違いないが今となっては私が一番適任か。
運のいいことに舞台演出に使う水が届いたところだし。

「今度なんか奢ってよ?」
「もちろん!」

交渉成立。
今日一日で呼ばれた回数分の飯を奢ってもらえるとすると、かなり食費が浮くなー……なんて思えるほど不備があったのか。

「……やっぱり、私じゃ駄目か」

呟いて下を向くけれど。
まずはこの布をなんとかしなくては。