一転して満足そうな顔になった縁は、分かればいいのと云いながらティーカップに手をやった。紅茶をひと口嚥下して、ふうとひと息。いちいちが絵になる。
暫く眺めていると、ふたつの瞳が私を捉えた。上下する長い睫毛が大きなそれをより際立たせている。
「なぁに?」
「……いや、なんでもないよ」
「ふうん。変なの」
見惚れていた、など。
口が裂けても云えまい。
彼女から受け取った『夜光虫』をカウンターの内側にしまい、紅茶を啜る。口に含んだ紅茶は幾分か冷めていた。
縁はふたつ目のマドレーヌを食んでいた。半分まで食べ進めると、
「そうだ、加賀美くん。なにかおすすめの本はなぁい?」
と唐突に云った。
「この前来たとき、本を買わなかったでしょう? どうせなら、加賀美くんのおすすめが読みたいなぁって」
そういえば、三ヶ月前彼女はなにも買わずに帰ったのだったか。
私は徐に立ち上がり、新書の書架へと足を向けた。



