濃紺の地に、薄青の光の粒が、散りばめられている。
夜空に光る星か、水面に揺らぐ海蛍か。いずれにしても、幻想的なデザインである。
そこに、銀で文字が箔押しされている。
『夜光虫』、分島晶午。
私がついさっきまで読んでいた本だ。
なのに、何故だろう。
「装丁が、違う」
私の手元にある『夜光虫』は、黒地に白い印字の極シンプルな装丁だった。
自分の分のティーカップを脇に避け、二冊を並べる。
見比べてみると、書体こそ同一だがデザインの違いは明らかだ。
縁は小さく笑んで口を開く。
「数十冊しか刷られなかった、未来の稀覯本よ。特別なお得意様に贈るためのものだから、市場には出回らないの」
「どうしてそんな貴重な本を、どうして僕に? そもそも、なんで君が?」
「それはね、」
少女は一層口角を上げた。
「わたしが特別なお得意様だから、かな」



