縁の様子に、頬が緩む。
マドレーヌを嚥下した縁が、血色のよくなった頬をぷうと膨らませた。不満を訴える眼差しは却って微笑ましいくらいだ。
「もう、笑わないで!」
「ごめんごめん」
「むぅ……!」
縁はますます頬を膨らませた。
そしてぷいとそっぽを向いた。猫のような仕草だった。
どうやら機嫌を損ねてしまったらしい。
「ごめんよ、縁」
「ふん。加賀美くんなんてもう知らない」
……困った。
普段はお菓子や紅茶で機嫌を取るのだが、残念ながらどちらも既に献上している。そもそも今回の場合、それが逆効果なのは目に見えている。子ども扱いしないで! と、更なる怒りを買うだろう。
どうしたものかと考えを巡らせていると、縁が横目で私を見た。視線がかち合う。そして、ぷっと笑った。
「変な顔」
「……へ、」
「だって、真剣に困ってるんだもの。なんだか可笑しくて」
ころころと笑いながら、縁は云った。
すっかり機嫌が直っている。泣いた烏がなんとやら、まるで子どもである。
呆れる傍ら、安堵もした。胸を撫で下ろす私を知ってか知らずか、
「いいわ。許してあげる」
少女は尊大ぶって云った。



