ときめきに死す


 少女が再びうちへやって来たのは、きっかり三ヶ月後のことだった。

 春が過ぎ、季節は夏に移り変わった。店の外では蝉の声が絶え間なく響いている。

 からんからん。
 ドアベルの音。扉に目をやると、彼女は居た。

 切り揃えられた前髪の下から覗く円らな瞳。それを縁取る長い睫毛。薔薇色の唇。
 色素の薄い髪は、前に会ったときより伸びていた。

 生成色の、三段フリルのワンピース。斜め掛けしたキャラメル色のポシェットに、レースの付いた短い靴下。薔薇模様の丸い靴。手には可愛らしいデザインの紙袋と畳んだ日傘を提げている。

 汗ひとつかいていない、涼しい顔。

 人形は口を開く。

「今日のおやつはなぁに?」

 あどけない声。
 恋しく思っていた声だ。

「マドレーヌだよ」
「マドレーヌっ? わたし、大好きよ!」

 云うなり、縁は軽やかな足取りで駆け寄り、私の目前の椅子に腰掛けた。