ときめきに死す


 縁の言葉がすうと胸に染みていく。
 卑屈になりつつあった心を、優しく矯正するように。

 惚けたように見えるだろう私を見つめて、縁はくすりと笑みを溢すと

「それとも、ひとつひとつ挙げた方がよかったかしら? 加賀美くんの好きなところ」

 意地悪な顔をして云った。

 顔が熱くなるのを感じた。歳甲斐もない。
 私はすっかり彼女の掌中である。

「い、いいよ……」
「そう? ざぁんねん」

 縁はくすくすと笑った。
 口角を上げたまま、縁は加賀美くん、と呼び掛けた。

「あなた、自分のことを凡庸だとか、そんな風に思っているでしょう」

 縁が私の目を射抜く。

 図星だった。

 特筆すべきところがない。平々凡々。人並み。……その通りだと思う。

「僕はなににも秀でていないからね」
「本当にそう思う?」
「え?」
「加賀美くん、あなたひと月にどのくらい本を読んでるか把握してる?」

 考えたこともなかった。意識すらしない。それを素直に伝えると、縁は

「そういうことよ」

 と笑った。