初めて縁がうちにやって来たときのことを、今でもよく覚えている。パステルカラーの装飾過多な洋服の柄も、鮮明に思い出せる。そのとき彼女が発した台詞も。
――なんでもいいの。
――あなたのおすすめの本を、一冊下さる?
アンバランスな娘だと思った。
大人の言葉を喋る、幼い少女。
私の目にはそれがとても奇異に見えた。
戸惑いながら、私は一冊の本を薦めた。深い青色をした、飾り気のない装丁の文庫本。珍しい横書きのそれが、少女にはよく似合うと思ったのだ。
「《大切なものは目に見えない》、か……」
「『星の王子さま』ね。加賀美くんがわたしに最初に選んでくれた本」
「覚えていたのかい」
縁は当然と云うように大きく頷き、
「何度も読んだわ、数え切れないくらい。今でも寝る前に読んでいるの」
わたしにとって、一番大切な宝物だわ。
そう、ふんわりと笑んだのだった。



