ときめきに死す


 背凭れに完全に身体を預けた私を、ぴんと背筋の伸びた少女が見下ろしている。その視線は、柔らかくあたたかい。

 非常に個性的で、奇天烈で、そして不思議極まりないと思っていた奇矯な少女は、想像していた以上に理知的で、論理的で、そして大人だった。

 外見と振る舞いと実年齢が乖離した少女が口を開く。

「ねぇ、加賀美くん」

 薔薇色の唇がゆっくりと弧を描く。

「加賀美くんは、わたしの何処を好きになったの?」
「は、」
「教えてくれないの?」

 少女の顔が、強かな悪女のそれに見えた。

「……そんなこと、分からないよ。気が付いたら、心に君が住み着いていたんだ」

 本心だった。

「最初は変わった子だなぁ、くらいにしか思っていなかったんだ。けれど帰り際、毎回本を買っていったろう。泉鏡花に安部公房、夢野久作。どれも僕がよく読むものだった。そのときは君のことを十四、五歳くらいだろうだと思っていたから、随分面食らったよ。子どもが読む本じゃないから」