ときめきに死す


「君と分島のことだけれど、結論を云うとやっぱり比べられないよ」

 縁はひゅっと息を吸った。
 異議を唱えようとする彼女を片手で制し、私は続ける。

「どうしてかと云うと、それは僕が人間としての分島をなにも知らないからだ。勿論君のことだって全て分かっているわけじゃないけれど、こうして面と向かって言葉を交わしている。だから君がなにか訴えるときどんな表情をしているのか分かる。でも分島はそうじゃない」

 縁はじっと私の話を聞いている。

「分島が書くのは小説であって、随筆じゃない。虚構なんだ。彼がなにを思いなにを感じるのか、読者には知る術はないんだ」

 努めて理論的に私は語る。
 言葉を砕き、噛んで含めなければならないほど、縁は馬鹿ではない。振る舞いこそ奇矯だけれど、実はものすごく知的なのだと私は考えている。

「……と、ここまでが建前なのだけどね」

 縁は少し水分の減った瞳をぱちくりさせた。
 私は特に気にせず続ける。

「比べられないとは云え、君はうちのお得意様だからね。そうでなくても、君のことは嫌いじゃない」
「ほんとう!?」

 嘘ではない。寧ろ、憎からず思っている。
 私は本音を隠したまま頷いた。
 途端に縁はぱっと顔を綻ばせた。