恋に堕ちたら




「おい蒼井、ビール」



その声と共に私の目の前にグラスが突然現れる。



会も中盤に差し掛かり、席は入り乱れる。が、なぜかここだけはそれはなかった。



「あのー、奥田課長。瓶ビールがそこにあるので自分でついでくたさい!!」



私は料理を口の中でモグモグしながら、上司にそう言ってやった。



すると上司はあらかさまに、チッ、なんて舌打ちをし私を恨めしそうに睨む。



って、睨まれても私は怯まないんだから!!



なーんて、顔だけは無駄にいい上司にそんな目で見られたら、いつもなら『仕方ない』なんてビールの瓶に手が伸びるのが常だけど、今回は絶体しない。



絶体に絶体にしないんだから!!



って、そう思いつつ隣を見ると、佐藤さんのグラスも殆んど空っぽ。



佐藤さんは何を飲むんだろ?



そんな事考えつつ、反対側の隣に視線だけ投げれば不貞腐れたままの上司がまだ空のグラスを握り締めてる。



でも、でもね、何となく腑に落ちない。この席順に。



なんで私がこんな人使いの粗い上司の隣なんだろ!?



「おい、佐藤くんのグラスも空いてるじゃあないか、ほらついでに注いでやれ」