凪とスウェル

「もうイヤだ…」


「え…?」


「もう…限界だ…。辞めたい…」


「隆治…」


何もかも放棄して。


今すぐあの仕事を辞めて。


アパートも引き払って。


すずの待つあの島に行きたい。


もう頑張れそうにない。


すずがいなきゃ。


立ち上がる元気も出ない。


「すずに会いたい…」


もうこれ以上離れたくない。


いつも一緒にいた、あの頃に戻りたい。


「……すずって?」


母親に聞かれて、ドキッとした。


どうやら無意識に声に出していたようだ。


「すずは…、俺の好きな子だよ。

島に居た頃から、ずっと好きだった子…」


こんなこと、母親に言うのは初めてだ。


熱があるせいか、今日の俺はどうかしている。


「その子、今は…?」


俺は、はぁと息を吐いた。


「あの島にいるんだ…。

植村キヨさんの孫…。

アンタ、知ってるだろ?」


「あ、あぁ…。キヨさんなら知ってるわよ。

そう…。

隆治はキヨさんのお孫さんが好きだったの…」


母親は意外そうに、目を見開いた。