凪とスウェル

「でも、インフルエンザかもしれないのよ。

そうでなかったとしても、風邪を引いた人が食べ物を作るってよくないと思うわ」


「だったら明日の朝までに治す。

薬飲んで、とにかく熱は下げるよ」


「ちょっ。何言ってるの。

こんなにひどい風邪ひいてるのに、休ませてもらえない職場ってどうなのよ?」


「しょーがねーじゃん。俺しか職人がいねーんだから…」


言いながら、またゴホゴホと咳が出た。


「今まで病欠なんてしたことねーんだよ。

やべぇなって思ったことは何度もあったけど、気合いで治して来たんだ。

熱がある時も、もしかしたらあったのかもしれないけど。

そんなの無視して、ずっと仕事してきたんだ」


「隆治…」


休んだことなんて、一日もない。


しんどかろうが、つらかろうが。


そうやって生きていくしか、なかったんだから…。


「隆治…。それって…。

あの事故の償いをしているの…?」


母親にそう言われて、俺はピタリと動きが止まった。


そうだよ…。


俺は千春さんの大事な足を奪ったから。


その償いをしようと、必死にやって来たんだ…。