凪とスウェル

隆治の腕の力が抜けて、だらっと下に落ちた。


心配になって顔を見上げると、隆治は呆然としていて。


なんだか抜け殻みたいな顔をしていた。


「隆治。

幸せになっちゃいけないなんて、そんなわけないよ…。

確かに隆治は、温かい家庭のぬくもりを知らないで育ったかもしれない。

いつも孤独で、寂しかったかもしれない。

でもね。

だからって、この先もずっとそうだって決め付けることなんてない。

誰だって、幸せな家庭を作ろうと思えば絶対に作れるよ」


隆治は悲しみに満ちた顔をしていたけど、それでもあたしは続けた。


「ずっとそれを求めてたんでしょう?

だったら、自分で作ったらいい。

隆治が憧れてた、あったかい家庭を。

隆治がそれを選びさえすれば。

その覚悟さえあれば。

絶対そうなれるよ」


あたしの言葉に隆治の顔が歪む。


「誰と…?」


「え…?」


「俺はすずとそうなりたいんだよ…。

他の誰かじゃダメなんだよっ」


「隆治…」


「あの日、すずと別れなきゃ良かった。

駅で泣いていたすずを、抱きしめれば良かった。

無責任だって言われようが、何て言われようが。

自分の幸せを、優先すればよかった…っ」


そう言って隆治が、あたしをまた抱きしめた。