凪とスウェル

師匠が入院して、もう1ヶ月以上が過ぎていた。


あと少しで退院だそうだ。


ここまですごく長かった。


以前もそうだったけど、一人でパンを作るのは本当に大変なことで。


店舗のことは奥さんや千春さんがやってくれるけれど、作業場は毎日戦場だった。


仕事が終わると、いつも千春さんが夕飯を準備していて。


アパートで食べるからいいと断っても、奥さんにせっかく千春が作ったのだからと。


半ば無理矢理食べさせられた。


アパートに戻ると、あまりに疲れていて。


着替えもシャワーもせず、そのまま泥のように眠ってしまうこともよくあった。


すずはすずで、試験が忙しいようで、会うことは出来なかった。


正直、限界が来ていた。


身体も心も悲鳴を上げていた。


でも、あと少しの辛抱だからと自分に何度も言い聞かせ。


すっかり疲労の溜まった身体を引き摺って、頑張って職場に通っていた。


そんな2月の半ば。


火曜の夜の、遅い時間のことだった。


アパートのインターホンが鳴った。