凪とスウェル

大学の講義を終えると、私はいつも家路を急ぐ。


長谷川君がアパートに引っ越してしまったから、私が長谷川君に会えるのは勤務時間内だけになってしまった。


だから、少しでも長く顔を見たくて。


少しでも多く話をしたくて。


こうして走ってしまうのだ。


先月の最終日曜日。


長谷川君が付き合って初めて、デートに誘ってくれた。


一緒に電車に乗ったり、一緒に食事をしたり。


街をただ並んで歩くだけで、胸がときめいて、ドキドキして大変だった。


もうすぐクリスマスだし、何かプレゼントしようかな?


そんなことを考えていたら、いつの間にか自宅の近くに着いていた。


前髪を少し整える。


長谷川君におかえりなさいって言われる瞬間が大好きだから。


はやる気持ちを抑えつつ、店舗の扉に手を掛けようとしたその時だった。


勢い良く手前に開くドア。


ビックリしていると、中から飛び出す一人の男性。


その男性は、なんと長谷川君だった。


「長谷川君?」


長谷川君は私の顔を見ると、おかえりなさいとは言わず。


失礼しますとだけ言って、走って行ってしまった。