凪とスウェル

パンが焼き上がり、オーブンから黄金色に染まったパンを取り出す。


オーブンの熱気が辺りに充満し、小麦の良い香りが漂う。


俺はこの瞬間が好きだ。


これだけは職人にしか味わえないものだろうと思う。


作業が一旦落ち着いたので、事務所として使っている部屋に入った。


インスタントコーヒーをマグカップに入れお湯を注ぎ、椅子に腰掛けた。


「ふぅ…」


こうやって椅子に座る瞬間も、ホッとするから好きだ。


俺はタバコは吸わないけれど、一服する人の気持ちがわからないでもない。


朝からずっとパンを焼き続けているので、少し疲れて目を閉じていると。


机の上に置いていた俺のスマホが鳴った。


誰だろうと思って見てみると右京だった。


え?今日アイツも仕事だろう?


こんな時間に珍しい。


なんだろうと思いつつ、電話に出た。