「風呂沸いたら先に入っていいって、お袋が言ってたよ」


「あぁ、ありがとう」


そう言って隆治は俺の部屋の椅子に腰かけ、ポケットからスマホやら財布やらを取り出し、机の上に置いた。


それに紛れて見える紺色のガラケー。


「おい、隆治。お前いい加減、その携帯処分したら?」


隆治は高校の頃に使っていた携帯を、スマホに変えた今もなぜかいつも持ち歩いている。


「駄目だよ。大事なデータが入ってるんだから」


大事なデータって、何だ?


「スマホにデータを移行すればいいだけの話だろう?」


俺の言葉に、隆治の顔が歪む。


「あのなぁ。それが出来るなら、とっくにそうしてるよ。俺にそんな技が出来ると思うか?」


「あー…、確かに隆治には無理だな」


意外に最新な物に弱い隆治。


見た目が完璧なだけに、そういう抜けた面があると、親近感が湧くというものだ。


「なぁ、隆治」


「ん?」


「前から言おう言おうと思ってた事があるんだけど、言ってもいいか?」


突然俺にこんなことを言われて、隆治がコテンと首を傾げている。


「何…?急にあらたまって。なんか怖いんだけど…」


ちょっと動揺している隆治の顔を、ベッドに腰かけたまま見つめた。


「お前さ、昔から寝てる時に寝言言うんだけど、知ってた?」