凪とスウェル

「話って何かな?」


「うん。実は渡したいものがあって…」


渡したいもの?


そう言って千春ちゃんがバッグから取り出したのは。


あのパンの袋だった。


「え?あの…あたし、朝はもう食べて来たんだけど」


「うん。わかってる。

でも、長谷川君が渡して欲しいって言うから…」


「え…?」


隆治が?


どうして…?


「この前すずちゃんに言われたことを、長谷川君に話したら。

長谷川君、すごく悲しそうにしてて」


「悲しそう…?」


「うん…。
長谷川君ね、すずちゃんにパンを選ぶ時が、一番楽しかったみたいなの。
あえて言わなかったんだけど、ウチのパンの新作を一番に食べていたお客さんは、実はすずちゃんだったんだよ」


「うそっ。そうなの?」


でも、それは…。


相手があたしだと知らなかったからだよね?


「朝食べないなら、お昼とか、おやつにどうかって言うの。

これ、長谷川君からのプレゼント。

お金は自分が払ったからって言ってたよ」


隆治…。