凪とスウェル

「え…?」


ドクンと心臓が鈍い音を立てる。


「東京…?」


あたしの問いに、隆治が頷く。


「じいちゃんがいなくなった今、俺がここに一人で残るわけにはいかないだろう?

母親がいるんだし、親元に行くのが当然だって、親戚一同に言われてさ…」


「そんな…」


「酒屋ももう閉めるって、じいちゃんのきょうだいがみんなして言うんだ。

俺、この店を継ぎたいって言ったんだけど、仕事のやり方もわからない高校生のお前が何言ってるんだって、相手にもされなかった…」


隆治はそう言うと、膝を抱えて顔を伏せてしまった。


「俺、東京なんか行きたくない。

母親とも、新しい父親とも一緒に暮らしたくなんかない。

ずっと。

ずっと、この島にいたかったのに…っ」


「隆治…」


これからもずっと一緒にいられるって思っていたのに、突然こんなことになるなんて。


そんなの信じられないよ…。


「明日、母親がここに迎えに来る」


「え…?」


明日?


「島には居づらいからって、本土のビジネスホテルに泊まってるんだ。

明日、母親と一緒に東京へ出発するよ」


うそ…。


そんな…。


そんなのって急過ぎるよ。


「すず…。


もう…。


明日から会えなくなる」