ツンデレくんをくれ!

「奈子さんごちそーさまでーすっ」


真顔の中出に言われてもこちらも嬉しくない。


でも、中出が食べたすき焼き定食(ご飯大盛り)はしっかり払わされた。


「奢ってやったんだからもうちょい嬉しそうな顔しなよ」

「やだ」

「嘘も方便って言うだろうが」

「嘘ついてまで奈子さんの機嫌取りたいとは思わん」

「相変わらず腹立つわー」


正式に付き合い始めて一ヶ月が経ってもこの調子だ。


「あ、ねえ、中出、聞きたいことがあるんだけど」

「何?」

「なんでさ、結局志満ちゃんじゃなくてあたしを彼女の代わりにしようと思ったの?」


車に乗り込んだ中出が後ろに振り返って瞬きを繰り返した。
(正式に付き合ってから後部座席はすっかりあたしの特等席である)


「……今更?」

「だって気になったんだもん。あたしなんか眼中になくて本当は志満ちゃんがよかったって言ってたじゃん」

「……んー」


中出は体を前に向き直してエンジンをつけた。暖房の温風が車内に充満していく。


「……奈子さんを好きになりたくなかったから」

「はあ?」


こいつ、今すっげー失礼なこと言ったよな。


「何それ。あたしなんか好きになる価値もないってこと?」

「違う。その逆」

「……あ?」


中出の言いたいことがさっぱり理解できない。