ツンデレくんをくれ!

それを聞いた中出は、「腹立つ……」とぼそっと呟いていた。


「それ言う前に、自分の言動直したら? 奈子さんだって、褒められるようなことやっとらんよ。うるさいし、でかいし、眼鏡だし、大食いだし、口は悪いし、最初はまじこんな奴と仲良くなりたくねえって思った。ぶっちゃけ、彼女の代わりしてもらうのだって本当は加山さんがよかった。奈子さんなんか眼中にもなかった。頼んだのだって密かに後悔してた」

「おいこら、仮にも女であるあたしをまた泣かせる気か」

「仲良くなってからも、いちいちうるさいし、姉貴ぶるし、黙れって何度も思った。死ねって何度も本気で思った」

「お前、ちょっと、人としてどうかっていう発言してるよ」

「でも、奈子さんの泣き顔見てそんな顔見たくないって思った。嬉しそうに笑ってるの見て、もっと見てたいって思った。別れてから奈子さんともっと傍で話したかったって思った。だから、俺…………」


そこまで一気にまくし立てて、中出は俯いて口元を手で押さえた。小さく唸っているのも聞こえる。


だんだんあたしの全身に熱が篭っていくのがわかる。


…………なんだ、これは。


もしかして、中出なりの精一杯のデレ?


はっきりと好きと言えない、精一杯の告白と捉えていいのだろうか。


「……中出」


思わず傍に寄って見上げると、心なしか目が潤んでいる気がした。


「中出、手外して」

「……無理」

「あたし、自惚れるよ」

「……すれば」

「中出があたしを好きだって、思っちゃうよ」

「……思えば」


中出の言葉に、あたしは嬉しくなってしまう。


素っ気ない態度だけど、何となくそこに温もりを感じてしまう。


それこそ勘違いかもしれないけど。


「中出、好きだから」


あたしが言うと、中出がこくりと頷いた。


あたしは口元にある中出の手に自分の手を重ねた。そっと外すと、中出の顔は真っ赤に染まっていて、いつもより幼く感じた。寒さのせいだけではないはずだ。


すごく可愛い。自然と頬が緩んでしまう。


「ね、キスしていい?」

「やだ」

「けち」


むっと顔をしかめていると、あたしの唇に中出の唇が触れた。


羽根が触れたように、一瞬でそれは離れて、あたしはその場に立ち尽くしてしまった。


「……帰る」


我に返ると、中出が荷物を持って部室を出るところだった。


「ちょ、あ、あたしも帰るっ」


慌てて中出の後を追った。