ツンデレくんをくれ!

「ていうかさ、奈子さんが何考えとるかわからんけど」


中出があたしをまっすぐ見据えた。


「俺、何も言っとらんから」

「は?」

「奈子さんは俺のこと好きって言ったけど、俺は奈子さんに何一つ言っとらん。振られたって勝手に思い込まれたくないんやけど」

「や、だって、何も言ってこないし」

「やっぱ思い込んどったんか」

「うぐ…………」


た、確かに。あたしはもう振られたこと前提で泣いてましたよ。


だってだって、中出があたしの思いに答えてくれるとか思えませんでしたし。好きとか嫌いとかそんな素振り全くないし。こりゃあ失恋決定だとか思っちゃうじゃんか。


「あのさ、中出」

「何」

「そういう期待させるようなこと言うのやめてくれる? あたしもこれ以上泣いてやつれたくないんです」

「へえ。泣いてたんだ。奈子さんが」


真顔でふうんと頷く中出を見てあたしはしまったと思った。


やべえ、自分で墓穴掘った!


泣いてるとか中出には絶対知られたくなかったのに! いつかネタに使われそう!


「そんなに俺が好きなんや」

「お前、真顔でそんなこと言うなよ……」


完全に他人事じゃないですか。


「じゃあ、中出はどうなんだよ」


なんだか恥ずかしくなって、あたしは中出に話題転換をした。


うまい転換ではなかったけど。下手したら、また泣き明かすことになりそうだ。


いっそのこと、振られたら中出の胸で泣いてみようか。失恋した男の胸で泣くとか、なかなか新しいものがある。


「俺? ……俺、は」

「あたしにだけ言わせるとかずるいでしょ。振るなら振る、はっきり言いなさい」

「あのなあ、奈子さん……」

「そんなんだから、今までも好きな女の子いてもろくに告白もできなかったんでしょ? 今時へたれ男子ってのが流行ってるけど、そういう男がいるからあたしみたいな女は自分からやっちゃうんだよねえ。それでぐいぐい来られると逆に萎えるとか言われてもねえ。原因が自分ってのがわかんないようなあほな男なんだよねえ」


言っててちょっと言い過ぎたかなと思ったけど、口から出してしまった言葉はもう返ってこない。返品不可である。


でもまあ、こういうことを思ったことは事実でもある。