ツンデレくんをくれ!

結局、あたし達は再び誰もいない部室で向き合うことになってしまった。


ただ、初めて話したときより二人の間に距離はあるけど。


「奈子さん」


中出があたし目掛けて何かを投げつけてきた。片手で受け止めると、紙パックのオレンジジュースだった。


「……いいの?」

「ん」

「……じゃあ、遠慮なく」


あたしは部室にまとめて置いてあるストローを一つもらって、紙パックのジュースを啜った。


「……おいし」


なんだか久しぶりに飲んだ気がする。


オレンジジュースは大好きだから前までは三日に一度は飲んでたのに、今じゃすっかり飲まなくなったことを思い出した。


「……奈子さん、痩せた」

「え、ほんと?」


中出が黙って頷く。


「やった。中出に言われるとなんか嬉しい」


頑張って痩せても絶対気付かなさそうなのに。逆に太ったらすぐ気づきそうだけど。悪いことだけ気づきそうな感じ。


「そうじゃなくて」


それまでずっと俯いていた中出の瞳があたしを捉えた。


それがあまりに射るような視線だったから、あたしはオレンジジュースを啜ることを止めてしまった。


「やつれた」

「……あたしが?」

「当たり前やん」

「そうかなあ……」


ごまかすように笑ってみたけど、思い当たる節はかなりあった。


中出と話せなくなってから、まともな食事もとっていなかったから。というより、全然空腹を感じなかった。一日ご飯一杯とお味噌汁を少し飲めばそれで満足だった。部活は飲み物を飲んでいるから脱水症にはならないと思っていたし。


まあ、そんな生活を三週間もしていれば、やつれてふらふらになるくらいはあたしでもわかる。


「何やってんの、奈子さん」


中出に名前で呼ばれていまだにいちいち反応してしまう自分に腹が立つ。


いちいち名前を呼ばないでよ。また心臓が痛くなる。余計ご飯食べれなくなったらまたお前のせいだからな。


「中出には関係ないじゃん。ほっといて」


心配されることは嬉しいけど、つい素っ気なく当たってしまう。


本当はこんな会話をできることすら幸せだと思っているのに。


「関係あるし。他の男子も心配しとった。俺が何かしたんじゃないかって」

「は!? あんた、話したの!?」

「まさか。でも、俺らがいきなり話さなくなったから、何か感づいたんじゃねーの」

「ああ……」


確かに、他人から見たらおかしいって思うか。


最近志満ちゃん以外に、あたしが部活で話していたのは中出とばっかりだったからな。