「好きな人と別れるのに、笑える人はいないでしょ」


あたしは、一気にそう言った。


息継ぎすら忘れるくらいだった。


「……は?」


当然のように、中出はその細い目をしばたたかせた。


何を言ってるんだ、こいつは。そう言いたげな表情をしていた。


そりゃそうだ。


あたしだって、まさかこんな奴にこんなことを言う時がくることになろうとは夢にも思わなかった。


彼女の代わりをしてくれと言われるまでは、絶対にこいつには何も言えずにこの恋は終わるのだろうと思っていたから。


イケメンとはとても言い難い。愛想もよくない。人に平気で毒を吐く。唯一の取り柄といえば、テニスで鍛えた細いけど痩せすぎずそこそこいいスタイルくらい。


そんな奴の笑顔に、あたしは魅せられてしまった。


こいつの愛らしい笑顔を傍で見ていたいと思ってしまった。


俯きながらパンを飲み込んで、オレンジジュースで流し込む。それからごみを片づけて、鞄を持った。


「一瞬だけ、あたしのわがまま受け入れて」

「え?」


あたしは意を決して中出に近づいた。