海くんはそのまま振り返ることなく、


家に入っていってしまった。



仕方なく私も家の中に入り、リビングのドアを開けると、


お兄ちゃんがテーブルの上でパソコンをいじっていた。




「おう、鈴おかえり」



「ただいま」




「ぁあ?元気ないじゃん、てか泣いてんじゃん。どした?」




お兄ちゃんはパソコンを畳んで、座ったまま私の顔を覗き込んだ。




「もう!泣いてないし。お母さんは?」


私はリュックをソファーに下ろし、カウンターキッチンの中に入って手を洗った。



「母ちゃんなら、ほら近所のチビの家にりんごおすそわけだぁって持ってって.....


そういえば、帰ってこねぇーなぁ。


話し込んでんじゃね?」



「近所のちび?」


カウンター越しに私が首を傾げると、お兄ちゃんも首を傾げた。



「鈴、最近一緒にいんじゃん。お前ら付き合ってんの?」




最近一緒.....ちび.......



「あ、もしかして海くんのこと?」


「そうそう、海のこと」



「もう!海くんはちびじゃないよ!」



私は冷蔵庫からお茶を出してコップに注いだ。




「あははっ、背伸びたのかよ!


ていうか、あいつは?ほら前交番前で待ち合わせした、

バスケ部」




「あぁ......」



私はコップを持ってお兄ちゃんの前に座った。





「吉井くんは......振られた。


振られたあと、海くんがずっとそばにいてくれて、



すごく優しくしてくれて、

胸がじーんと温かくなって......


海くんのそばにずっといたいって思った。



吉井くんを忘れて、海くんだけを考えたい、大切にしたい、

離したくないって思った。



でも、最近になって吉井くんに、


本当はずっと好きだったって、付き合おうって言われて.....」


「ちょ、ちょっと待て。


おい、ちょっとバスケ部いい加減じゃね?」